ある雨の降る夜のこと。
仕事帰りに響いていた遠雷の音が、いつの間にかすぐ側で聞こえる
「雨、か…」
冷房のよく効いた室内、日光を遮る為、閉めきったカーテンを開けると、陽は既に落ち暗く、大粒の雨が窓を打つ
冷房を止め、窓を開けると、雨で冷やされたのか、涼やかな風と雨とが吹きこんでくる
ふと、壁掛けの時計をみると、22時をちょっと回ったところだった
「もうこんな時間…!?」
驚いたのも一瞬
秒針が止まっている
僅かな安堵で肩を落とし、再び外を見遣る
辺り一帯を喧しく叩き続ける雨音は、なぜか心を落ち着かせてくれた
再び時計を見つめたが、機能していない事を思い出す
目を落とすと、雨を予期して、帰宅後すぐに取り込んだ洗濯物が部屋中に散らばっている
その中からタオルを何枚か探しだし、玄関へと向かう
服装は部屋着と言うに相応しい軽装…
手にしたタオルをそのまま無造作に玄関床に放り投げると、濡れても構わないよう、サンダルを履いた
「はぁ…よく降るなぁ…」
玄関先へと出ると、室内では感じられなかった、空気が雨に震えているのが分かる
少しの間、呆然と空を見上げ、そのまま雨の中へと歩みを進めた
相変わらず力強く降り続ける大粒の雨がこれでもかと言わんばかりに、痛い程の激しさで肌を打ち付ける
そんな刺激を堪能するかの様に、ゆっくりと進んで行く
特に目的がある訳ではない
ただ、単純に雨の中を歩く
ただそれだけ
それだけの為であればこそ、傘も持たず、濡れるがままに歩く
「こっちは…」
近くの交差点まで来た所で歩みを止め、周囲を一瞥する
「こっちは誰かに会うかも知れないなぁ…」
普段よく通る、比較的に人通りの多い道
雨が降っているとは言え、誰かに出会う可能性はある
その反対側へと伸びる道は、普段、晴れた日であっても人通りが少ない
「誰かに見られたら大変だしね」
そう呟くと迷うことなく、普段から人通りの少ない道へと進んだ