夜の山道、老人と私
それから数日、良く晴れた、月の綺麗な夜の事…
この時期にしては涼しい夜風に、私は空調を止め窓を開けて歓迎した
窓際に椅子を準備し、片手には良く冷えたビール…
遠くに浮かぶ月にグラスを合わせ、一息に飲み干した
「…はぁ、やっぱりグラスのが美味しいわ~」
普段は缶で済ませているが、こんな日は少しだけ贅沢をしてみたりする
「いい夜だ…」
夜風を存分に受けようと、窓枠に手をかけて身を乗り出す
その体勢のまま、大きく息をすい、吐き出す
わずかに酔いも回り中々にご機嫌だ
「さぁて、どうしよか…」
このまま寝るのも味気ない
かと言ってテレビを見ようと言う気分でもない
煌々と輝く月を眺めていると、視界の片隅に人影を捉えた
「あれ…?」
先日の老人が歩いている
足取りはしっかりとして見えるが、その様子はどこか危うさを感じる
認知症らしい事を知っているせいか、そのまま見過ごすのも釈然としない
「う…ん…、そだね!」
丁度、寝るのも惜しいと思っていたところでもある
念のため、再度、老人の姿を確認すると急いで外へ出た
「こんばんは!」
驚かせないように、わざと足音を発てて近づくと、さも楽しそうな口調を心掛けて挨拶をした
その声に振り返った老人は、如何にも不思議そうな、ともすれば呆気にとられている様にも見える、何とも言えない顔をしている
「この前はどうも!良い気分転換になりました」