夜の山道、老人と私

楽しそうな口調をそのままに話しかけると、老人はにこやかな表情になった

「ああ、この前の…、あんたが身を呈して助けてくれたお陰で、こうしてまだ歩く事も出来るんじゃて…有り難い事だ」

誰かと勘違いしているようだ
覚えていると期待していた訳でも無いが、これはこれで予想外だ

「それよりの、見つけた…、やっと、」

私が予想外の返答に対応が遅れたのをきっかけに、老人は何やら楽しそうに話し始めた

「これから採りに行くんで!ついて来るかえ?」

「あ、はい!」

よくわからないが、何やら楽しそうではあるし、何を見つけたのかも気になる

誰かと勘違いしているにしても私はもとより、老人にとっても、大した事ではないだろう

揚々と歩みを進める老人の後を、追い越さないように着いていく

老人の、その足取りは遅いとは言え、とても軽やかだ

見つけたと言った「何か」、それがよほど嬉しいのだろう

「こっち、こっち…!」

気付くと老人はすぐ脇の道へと進んでいる

その意表をついた進行は、ぼんやりとしていると見失いかねない

私は慌てて後を追う

その様子を笑いながら手招きで急かす

老人の予期出来ない道筋を追って行くと、見覚えのある路地へでた

「あ、ここは…」

先日、老人と歩いた山沿いの路地…
出会った場所、あのベンチのある所からも近い

「こんな道もあったんだ…」

老人を追いかけて通った道も、初めてだった

そんな私を気にも留めず、老人はスタスタと歩いて行く

「あ、待って…」

そんな私を尻目に、老人は山へと入って行く

「ちょ、そっちは危ない…」

いくら月明かりがあるとは言え、流石に危険だ