夜の山道、老人と私
「ああ、もう少しだったのに残念だ…」
そう呟くと、老人はトボトボと歩きだした
「ちょ、ちょっと待って…」
私は老人の手をとり、そして一息つくと、前を見た
「先日に続いて申し訳ないのですが…、ここまで案内して貰ったのは私の頼みだったのです…お怪我の無いように、危なく無い様に十分に注意しますから…」
もはや、自分でも何を言っているのかわからない
「…お願いします」
訳のわからない、恐らく、かなり意味のわからない、脈絡のない、そんな言葉を並べ立て、そしてお願いします、と頭を下げた
正直、山に入って行くのを見た時は連れ戻すつもりでいたが、老人の様子を見るとそれも出来なかった
また、何故かこのまま帰しては行けない、そんな気がした
「…お願いします」
必死の思いで、再び頭を下げる
先程よりも深く、ゆっくりと頭を下げる
そのまま数秒、または数分だろうか…、掴んだままの老人の腕から緊張がなくなるのを感じて顔を上げた
「じゃあ、行こうか…の?」
老人はまだ涙の後を残したまま、笑っている
「…はい」
私も安堵し頷くと、老人の手を握り直した
それから先は至って順調だった
荒々しく育った草木の合間、人が通るにも十分な獣道を通り、歩いて行く
老人の様子も、先程までとは違う…
恐らく、今は正気だろう
その足取りに迷いもなく、見ていても不安を感じる事はない
どれくらい歩いただろうか…
少し拓けた場所に辿り着いた