見えない迎え。そして帰路へ
老人は私の後を、まるで子供の様についてくる
月明かりは木々に遮られて乏しくはあるが、来る時と同様、歩くのには特に難はない
そうして、山の入口まで下りた時、老人が立ち止まった
振り返ると、老人は険しい顔つきで、私の少し前方を見ている
「…あ!」
即座にピン、ときた
また、誰かが迎えに来たのだ
前を向き直ると、やはり誰もいない
余程、家族の誰かに戒められているのだろうか?
流石に、こうなんども錯覚するとは不思議でもある
「あの…」
見えない誰かに、私が口を開こうとした瞬間、老人が手を引いた
「いや、もうええ、気がすんだ…」
老人は私をみて、言った
「え…?」
その表情はとても穏やかで優しい微笑みを湛えている
「用事は済んだ!思い残しはないぞえ!」
驚く程、張りのある声で老人は言った
そして、私の手を解くと、澱みなく前へ進みでた
「行くか…」
「え?あ…、ちょっ…」
私には何が何だかわからない
「ありがとうな…」
追いかけようとすると、老人は振り返り笑顔で言った
その表情は少し淋しそうにも見えたが、それにもまして満足そうだ