見えない迎え。そして帰路へ

「あ…、こちらこそ、あんな素敵な景色を…ありがとうございました!また機会があれば…是非!」

老人の表情に、私にはそう応えるのが精一杯だった

「さようなら…」

老人は、私の言葉に一言応えると、前に向き直り歩いていく

「おやすみなさい!」

歩き去ろうとする老人の後ろ姿に、私は思わず叫びかけた

その声に振り返る事はせず、片手を大きく振った

その手には摘んだばかりの桔梗の花が、しっかりと握り締められており、それが妙に印象に残った

「はあ…、行っちゃった…」

何だか拍子抜けしたような、狐に摘まれたような、何とも言えない気分で、私は暫く動く気になれなかった

「ま、仕方ない…か」

気を取り直して、ふと思いだした

「ちゃんと帰れるのかな…?」

勿論、老人の事だ

心配はないと思うが、万が一もないとは言えない

「まだ間に合う…かな?」

老人が去ってから、暫く時間は経っているが、ペースを考えれば十分追い付ける

私は、よし!、とばかりに小走りに帰路へ発った

別れた後、それ程時間が経ったとは思えなかったが中々その姿が捕らえられない

大事なければいいが…、と内心、焦りが沸き上がる

「あ…!」