見えない迎え。そして帰路へ
途中からはほとんど走っている状態だったが、遂にその姿を捕らえた
老人はいま、正に自宅へと入ろうとしているところだ
「はあ、はあ…、良かった…」
その姿を確認すると、つい、座り込みそうになったが、なんとか堪える
「はあ、はあ…、こんなに走ったの、何年ぶりかな…」
立ち上がろうにも手を膝につき、中腰の状態がやっとだ
「…運動しなきゃ…ね」
呼吸が整うまでの数分間、何も考える事が出来ず、ただ安堵のみを感じていた
「そろそろ帰るかな…」
漸く呼吸が落ち着き立ち上がる
「足が重い…、疲れた…、ああ、歩きたくないよ~…」
独り言でも幾らか気を紛らわせれると思ったが、口をつくのは愚痴ばかり…
それでもヨタヨタと歩き始めると、何だかんだで歩は進むものだ
ヨタヨタと、特に何か考えるでもなく、ひたすら自宅へ向かう
大した距離でも無いが、近い、と言う程近くもない
月は相変わらず煌々と輝き、夜風はほど好く涼やかでいつしか疲れも忘れ、歩きながらも賑やかな虫の音に酔いしれるかの如くに聴き入っていた
「とうちゃ~く…」
気付けば自宅の前まで辿りついていた
部屋へ入ると、開けたままの窓から風が舞い込み、カーテンを揺らしている
何とはなしに窓辺に近づき外を見る
「綺麗な月だ…」
暫くそうして月を眺め私は浴室へと向かった