予期せぬ出来事
我に返ると自分でも不思議ではあったが、やはり出勤する意気は全くでない
「信じられない…」
吸い寄せられるように玄関先まで行くと、ちょうど、これからの予定が張り出されたところだった
「今夜が通夜…、葬儀は明日か…」
内心、酷く困惑しているが、周囲に悟られる事はない
私の性分なのか、辛い時や悲しい時ほどその表情は至って平静らしい
「とりあえず、帰ろう…」
このまま線香だけでもと思ったが、身なりを整えた上で通夜、葬儀へと参列させて貰おうと考え直した
「曲がりなりにも最後を看取ったようなものだし…ね」
何処か現実ではないような、ふわふわとした感覚…
太陽は徐々に陽射しを強めているが、それさえも殆ど無感に近い
何処をどう歩いたのか、全く記憶にないが、それでも自宅へと帰り着き、玄関を開けた
中に入ると、部屋の空気はまだひんやりとしている
「少し休もう…」
確認してきた予定では、開場は夕方頃からだ
夜通し起きている事になるかも知れず、今の内に眠っておくべきだろう
目を覚ますとちょうど日が落ちはじめたところだった
起き上がるとシャワーを浴び、服を着替える
「はあ…」
一通り準備を終えると、窓から外を見た
「昨日の事…だよ?」
昨夜、老人を見つけた辺りをみる
あれ程、元気そうだったのに…、と、今でも不思議でならない
「そろそろ行くかな…」
私は重い足取りで外へでた
日が傾き出したとは言え、まだまだ気温は高い
風が幾らか涼しいのがせめてもだが、それでも歩けば汗が浮かび、ハンカチで拭いながら、歩いて行く
いつになく重い気分で、出来る事ならたどり着く事すらなければいい、そんな想いに刈られる
けれど、そんな想いとは裏腹に、それなりの時間で目的地へと到着した
「…お願いします」
受付で手続きをすると、中へと入る
流石にこの歳だ
通夜にしろ、葬儀にしろ、初めてと言うわけではない
けれど、この雰囲気は何度体験しても快いものではない
開場、と言っても老人宅の一室…
それ程広い訳ではない
まだ開場したばかりで参座者も多くない
であれば、そこここで忙しなく動き廻っているのは家族か血縁者だろう