予期せぬ出来事
辺りを見渡し、誰かを捜す
そう、「誰か」だ
私には姿は見えなかったが、老人を執拗に連れ戻そうとした「誰か」…
顔も性別も知らないけれど、それでも見ればわかる…、そんな気がしていた
「わかるわけ無い…か」
一通り目を通して見たが、老人をあそこまで追い詰める様子を持つ人物は見当たらない
「一言、文句言ってやりたかったな…」
やり場の無い感情も相まって、はけ口を捜した様なものだ
寧ろ見つからないほうが良いに違いなかった訳だが、そうと知っていても、やはり残念な気持ちは拭えなかった
仏前が空いたので、焼香をさせて貰い、老人の顔を拝した
昨晩とさほど変わった様子も無く、既に亡くなったとはこれでもまだ信じられなかった
「あの…、すみません」
部屋の後方へと戻り、座っていると、不意に声がかかる
「はい…?」
「これを…」
私が返事をすると、声の主は、一枚の封筒を渡してくれた
封筒には私の名前が書かれている
中々の達筆で、年配の人が書いたと思われる字体…、それが老人の書いたものであろう事が即座に分かった
封筒を受け取ると、その場で開封すると、手紙が一枚、半分に折りたたまれて入っている
私はそれを取り出し、広げると、人目も気にせずに読み始めた
手紙は、「ありがとう」の一文から始まり、あの花を探していた経緯、その意味と必要性が箇条書きの様に端的に書かれていた
この短い文章の一つ一つが、共に歩いたあの時間に関係している事を想うと、その行間がとても雄弁に感じられる
普通に読めば、実に数秒で読み終わってしまう文量だが、私は手紙から目を離す事が出来ずにいた
そのうちに、点々と手紙に染みが出来、視界がぼやけてきた
そうなって漸く、私は手紙から目を離し、瞼をとじた
そして誰にも気付かれ無いように席を立ち、静かに外へ出る
気が落ち着くのを待ち、空を見上げると、昨晩同様、月は煌々と輝いている
輝く月の明かりは、何処か輪郭が虚ろで優しさを湛えている
まるで、慰めて貰っているような気持ちになり、同時に、多少、冷静になった為か、手紙の内容から一連の出来事を理解し、何とも言えない、ただ切ない感覚だけが残った