そして日常へ

「えっと、携帯は…」

枕元に置いたままの携帯を拾いあげると、時間を確認する

「まだ開いてるとこもありそうだ…」

時刻は9時を少し過ぎているが、選ばなければ何処か開いているはず、と、私は外へでた

空は厚い雲に覆われているのか、月は見えない

それでも民家には明かりが燈っているため、歩く分には問題無い

飲酒店の並ぶ通りまでは少し距離があるが、タクシーを呼び付ける程度の事でもない

「最悪、コンビニ弁当でもいっか…」

時間も時間な為、歩いていては閉店に間に合わないかもしれない

それでも今、私は歩きたかった

見馴れた景色を確かめながら、老人との時間は、確かに存在していた事を、頭ではなく、気持ちの部分で理解しなければと考えていた

幾ら頭で理解していると言っても、昨夜からの出来事に心は追いついていない

何処かでその記憶を早く忘れさせてしまおうとしている

「夢じゃない…」

私は静かに呟くと、追体験でも試みるかの様に闇の中へと向かって行った
夏も終わりに近づき、朝夕はすっかり涼しくなってきた